その3「勉学」編

2、第一高等中学校二年

九月十四日 

 今日より授業を始む。其時間割は次の如し。 

時限  8~9  9~10  10~11 11~12  1~2  2~3

 

 月  国文    漢文    博物    物理    万国歴史  体葬 

 火  倫理    英文    訳読    三角術   物理    体操 

 水  独乙語   漢学    博物    日本歴史  万国歴史  体操 

 木  三角術   英語    訳読    漢学    体操    博物 

 金  三角術   英語   支那歴史   万国歴史  体操 

 土  独乙語    訳読   博物     COX

 支那史の参考書は支那通史、万国史はフィッシャー氏の万国史、独乙語は「日耳曼コース」、三角術はトドホンター氏の三角術書、訳読は人間交際論(ヒューマン・インターコース)なり。物理、博物、日本歴史等は口述なり。

 

九月二十九日 

     多  忙 

 当時の多忙驚くばかりなり。

・先づ万国史の暗記は二日に一回なれば、一回分大抵七ページを暗記するなり。而してれ之を暗記のかたはら之を翻訳するなれば、七ページを訳する時間は少くとも五時間なり。故に一日二時間半乃至三時間を要するなり。 

・英文を和訳する課は一週一度あり、之も大抵二時間を要す。

・漢文の下読みは一週三度にして合計三時間を要し、

・三角法の復習、

・独乙語の復習、

 其間にありて暇あれば何時間読みても足る可くもあらず。然るに近来に至りて英語のパラフレースの下調べ始まり、物理の講義の難所となり、昼夜一点の閑なく、日、土曜も心静ならず。

 

明治二十七年 

六月十八日

 

学年試業  

吾人の武器を試むる試業は来れり。注;試験問題全文記載あるも省略) 

万国史  英文和訳 

先ず今日の試業も思はしからねど一通りの出来なり。 

六月十九日 

 支那歴史   日耳曼語(注;ゲルマン語) 

六月二十日 

 物理     漢文 

六月二十一日 

 三角(出題は英語)  日本歴史 

 嗚呼一級、是我が厄期なり。万国史の鬼あり、支那史の狼あり、日本史の虎あり、一日も余の心を安んぜざるなり。之れ余の三角術を慢りし所以今日其結果を見る。 

六月二十二日 

 動物   和文英訳(受持教員コックス) 

六月二十三日 

パラフレーズ(受持メーソン)   国文 

 試験は終りぬ。正に手を舞し足を躍して喜ぶべきの時なり。しかも自ら喜ばず之何の故ぞ、自らも之を知らざるなり。

 

 

 此夜茶話会あり、松本教授のオックスフォード大学の話、松村少佐の普仏戦争皆面白し。昨日間中氏を訪ふ。