日本人の叡知

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「日本人の叡知」
小平浪平と板垣退助
磯田道史「日本人の叡知」より.pdf
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 磯田道史『日本人の叡智』は読んでいますが内容は殆ど忘れていました。今回の足立さんのPDFを読んでいろいろ思い出しました。
 (会社の)長生きの秘訣は、論語由来の和をもって貴しとなすの平易なbreakdown版とも読めるでしょうか。
 遣欧米使節帰国後の大久保利通が産業では20年の遅れを取ったが精神文化では負けていないと言ったエピソードは有名ですが、その殖産興業時代の最良の産業人の一人としてこの期の小平さんは位置づけられるべきと考えております。
 GE,Siemensなど日立鉱山の外国製鉱山関連機械類に囲まれた環境の中で、発電所建設から電機製品の素材類、人材に至るまで、一国の電機産業の全ての国産化を夢み実現した技術屋、事業家として日本近代史の中で特筆されるべき価値があるでしょう。その様相は日鉱記念館(JX金属運営)を観ればリアルに伺い知ることが出来ますが、同じく、山の帰りに観たことのある、足尾銅山記念館(市民運営)と比較しても著しい特徴をなしています。
 板垣退助の項に関連した足立さんの現代日本へのコメントにも同感です。小平さんの鉄道オール電化論は昭和恐慌脱出策として、世の中ではルーズベルトがニューディール政策として実現したとされるケインズ的マクロ政策を先取りしていたとも云える秀逸なアイディアです。
 この時期、経済ジャーナリスト石橋湛山の小日本主義論、更には高橋是清の積極財政(二二六事件で中断)などと並んで、これらの日本型ニューディールとも云えるケインズ的「国内投資立国論」が採用されていたならば、昭和恐慌の深化も無く、従って大東亜共栄圏ファシズムのようないささか無理筋の「海外投資立国論」の架空の夢に浸り、300余万の国民を死なせ、国を滅ぼすような愚策に走る事も無かったかも知れません。
 アジア太平洋戦争中の国家総動員体制経済は悪しき戦争ケインジアン政策と定義出来るでしょう。戦前ハーバード大学に留学し開戦によって日米交換船で帰国、戦後経済安定本部(経済企画庁の前身)に勤め日本にGDP 統計を導入した都留重人は、所謂マッカーサー民主化政策は政府官僚によって次々と換骨奪胎されていったと証言しています。
 財閥、元老・華族、皇族等々戦前の権力層が解体されていった中で、一人官僚のみが最強の権力層として析出されたという事かと理解しています。以降田中角栄内閣までは東大法学部卒官僚出身が権力者の王道となります。それらが戦後の重化学工業傾斜生産方式を産み出し、今日に至るまでのいわゆる護送船団「日本丸」方式的な経済産業システムに接続されていったのでしょう。
 一方、戦後アメリカの対ソ政策はケナンのcontainment 封じ込め政策からroll back 巻き返し政策へと転換され、ダレス国務長官を中心に日本の対ソ或いは対共産圏核戦争前線基地としての整備が進められたという事なのでしょう。そして官僚を中心に再編成された日本の重化学工業中心の経済産業金融システムは戦争ケインジアン政策の戦後版とも言えますから、アメリカの対ソ冷戦体制下の基地育成とも極めて相性が良かった筈です。
 また政治面では、CIA 資金で作られたと言われる保守合同、55年体制誕生、極東のストロングマンとしての岸信介支援などによる基地政治の安定化などにもダレスの深謀遠慮は及んでいたという事かも知れません。そして韓国のストロングマン朴正煕、文鮮明の勝共連合に嘗ての上司であった岸信介が協賛支援し、今日の政局にまで影響を及ぼしているという人がいるということのようです。
 話が脱線しました。近年の日立の幹部層交代劇や現マネジメント層について足立さんのようなブーイングが多いのは承知しています。多くの事業部門を売却してキャッシュフローを生み出した事も事実でしょう。しかし、護送船団「日本丸」体制下、従来のような発電プラント、電機、家電、その他あらゆる分野で欧米比較でメーカー数過剰の状態は維持困難と判断しており、業界再編は必至の状態だったのではないでしょうか。また、コンピューター事業進出を社運を賭けて決断したのは倉田会長、駒井社長の時代の先見の明だったと理解することも可能でしょう。
 DXというコトバはあまりにも軽く好きではありませんが、今後とも、ジェノバの公共交通運行管理システムのような案件で世界に貢献する日立として成長できる事を祈りたいと思っている次第です。
 蛇足ですが、日本のJR 各社は赤字路線を公表しそれらの廃路線政策を推し進める計画であり、従って国交省トータルでは、未だに昭和モータリゼーション路線を爆進して行く、或いは地方切捨て、廃棄を進めていくということでしょうか。省エネな交通機関は、船ー鉄道ー自動車ージェット機の順になり、モータリゼーションへの過度なシフトは世界の脱カーボン政策に反します。ジェノバ市のようないく種類もの公共交通機関(既設インフラ)を活かし活用する事の方が遥かに現代的であり未来性ある豊かな成熟文化のように見えます。
 神永(2022/10/12)


創業社長で最高な人は?

昭和50年代の住友グループ(住友商事・住友電工・住友銀行・住友金属・住友化学)の役員勉強会の話です。
「有名会社の創業社長に就いて」とのテーマが討議された。トヨタ・松下・本田・ソニー・三洋・日立等々。流石に創業社長さんはそれぞれ素晴らしい方々で、比較することは失礼になるのでしなかったとの事。
 しかしながら誰が最高かとの議論になったとき 全員が異口同音に「最高は日立の小平社長だ」と言うことになったとの事。
一言で云うと 小平創業社長は
  《最高の修業を積んだ最高の人格を持合せた禅宗高僧》
との結論に至った。
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・ガミガミ大声で叱咤することもなく、本社ビルにジッと座っているだけで あの日立の大所帯が一糸乱れず完全に機能した。
・あまりにも高邁な人格者であり、すべての社員は小平社長に心服し切っており、これが大きく左右したものである。
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 (この話は当時住友電工の今井正雄常務(後の明電舎社長(1977-84)⇒当時日東電工横田耕二常務⇒大津さんからの手紙より)