7、不況対策のための「鉄道電化」論文

 本多希久雄さんが 昭和7年の雑誌「交通と電気」(4月及び5月号) 浪平の「失業対策としての鉄道電化」という論文が掲載しているのを発見した。大発見である。昭和初期の不況が長引き、農民や生活困窮者が続出すると共に「大学は出たけれど」と言われたように 中間層の「熟練労働者」の失業問題が大きな社会問題となっていた。

 

 日立の創業製品は高尾直三郎が設計した「5馬力モータ」が有名であるが、 日立が自前で電車を開発したのが明治44年3月。開発したのは前年9月入社の馬場粂夫。日立鉱山の溶鉱炉に鉱石を投給する「1.5トン電気機関車」。性能は歩く位の遅速品。この開発で馬場は後年になって「自ら苦しんで失敗の中に覚える」事を学んだと言っている。(出所;(水)工場内史(電気機関車編)より)。この「不況対策のための鉄道電化」の論文は社史の何処にも載っていません。当時日立は昭和電工納め電解槽の完成で一息つき、金融機関が融資に猛反対しても完成させた海岸工場も稼働。社長として一番油の乗っていた時期。

 浪平は 学生時代には佐久間象山に憧れていたように「プラグマティスト」。一方で皇室を崇拝し、古来の神々を信奉する「ナショナリスト」。この論文は国産初の「電気機関車」を開発した三井田誠二や、収支計算はリタイヤしていた今尾二三郎にアドバイスも受けながら 場合によっては ご自身一人で書き上げたのかも知れません。
 この論文は「WITHコロナ時代」にも通用する論旨である。「グローバリズム」と「ナショナリズム」の関係を再構築するために一読すべき論文である。
以下 本多さんのコメントと浪平の寄稿論文を下記します。

 

本多さんのコメント

「失業対策としての鉄道電化(小平浪平)」を読む

                                                                       2020年5月26日

                                                                         本多希久雄

1、はじめに

昭和7年の雑誌「交通と電気」(4月及び5月号)に日立製作所小平社長が「失業対策としての鉄道電化」という論文を掲載しました。

その骨子は以下の通りです。

(1)「失業問題」の解決は、今後の日本社会延いては国家の運命を支配する重要な課題である。 

 

(2)近年の経済不況に際して種々対策が取られているが、「失業問題」の解決には至っていない。各方面において、根本的対策を建てる必要があるが、電気事業の立場からみると、国有鉄道の大規模な電化が有効な対策である。

 

(3)「失業問題」の解決は、結局のところ産業の振興がカギとなる。政府を中心とした失業者救済の為の公共事業は、一時的で且つ波及効果に乏しく有効なものではない。何よりも鉄道電化は熟練労働者の就業機会を確保できるメリットがある。

 

(4)「鉄道電化」の事業は年6.4%の利益が見込めるので5%利付きの公債で賄っても1.4%の剰余が生じ、30年程で元金を皆済できる。

 

(5)この事業に要する総費用は国産品の購入に充てられるので国内に還元される。また、それに占める労賃の割合は90%を超えるので、1日当たり8万人の雇用を生みだすことが出来る。

 

(6)鉄道の電化によって、現在の余剰電力が活用され、電力業界の助けになる。石炭の需要は減るが、もともと石炭資源は有限なものであり、一朝国家有事に備えて、海軍・海運の為に備蓄すべきである。

 

(7)日本は今後産業立国の道に進まなければならないのだから、熟練労働者の育成は重要課題である。のみならず、熟練労働者の生活安定は善良な社会の秩序を確保する為の要である。「特に今日彼らを救済するの急務なるを切に感ずるのである。」

 

昭和恐慌の渦中にあった昭和7年、58才の時に書かれたこの論文には、産業人としての小平翁の真面目が遺憾なく発揮されています。当時の時代背景を踏まえながら、小平翁の見識」をフォローしてみたいと思います。

 

2、時代の背景

小平翁は先ず緒言に於て「失業問題」を取り上げ、「思想(イデオロギー)」面での社会的対立の問題を解決するには、「失業」という経済の問題を解決しなければならないと主張します。しかもこの「失業」問題への対応は、「今後の日本社会を左右し延いては国家の運命をも支配すべき重要問題である」と指摘します。

 

昭和7年という時期を今振り返ってみると、大正年間に“デモクラシー”が花開き、普通選挙法と治安維持法が成立する中で、一方で社会主義・共産主義の政党活動並びにストライキが活発となり、毎年のように共産党員の大量検挙が繰り返されると同時に、文部省、警察による「思想統制」の強化がはかられました。他方で国粋主義団体の結成も盛んで、血盟団員による井上準之助暗殺(昭和7年2月)など有力財界人への「テロ」が頻発しました。

 

 こうした状況の間隙をぬって、陸・海軍の内部に結社が作られクーデタが計画されるようになり、昭和6年満州事変、昭和7年には5・15事件が起きています。そして、昭和11年の2・26事件、昭和12年日中戦争を経て、日本は軍国主義一色になり、遂には有史以来初めての外国軍による占領という経験を強いられるに至りました。2・26事件に於ける青年将校の義憤に農村の窮乏問題があったことを想起すると、小平翁の指摘した「失業」問題への対応如何が国家の命運を支配するという発言が、如何に示唆に富むものであったかが分かります。

 

3、失業対策事業

さて、その失業問題の解決について、小平翁は「産業の振興」を図る以外に方法はない、と断言します。

大正10年の雑誌「東洋経済新報」に掲載された石橋湛山「大日本主義の幻想」という社説があります。冒頭で「朝鮮、台湾、樺太も棄てる覚悟をしろ、支那やシベリヤに対する干渉は、勿論やめろ。」と宣言し、これらの土地がなければ「経済的に、また国防的に自立することができない。」という意見に対して、貿易の統計数値に基づいて国際経済の実際をよく考究すべきことを力説しています。つまり経済の国際化を視野に入れて国内資本の充実に勤めれば、諸外国は喜んで生産の為の資源ならびに土地を提供するものだ、と主張します。そして国内資本を豊富にする為には、国民の全力を学問技術の研究と産業の進歩に注ぐべきである。兵営の代わりに学校を建て軍艦の代わりに工場を設けよと言い、遂には陸・海軍経費約8億円、仮にその半分を年々平和的産業に投ずれば、日本の産業は飛躍的に発展するであろう、とまで言い切ります。

 

結局その後の歴史は、「資源」を求めて限りなく膨張する「大日本主義」が世の中を風靡して、「産業の振興」よりは「軍備の増強」へ、戦時経済体制へ移行してしまいました。

小平翁は失業問題に限定して論じているわけですが、昭和7年時点で産業の振興による失業問題の解決が急務だと主張します。産業界全般にわたって各方面から事に当たらなければならないが、政府をはじめ種々計画がある中で「鉄道電化」の事業は、その規模並びに波及効果からみて、特に熟練労働者の失業救済に寄与するところ大であると述べています。

つまりこの小平翁の「鉄道電化」の構想は、生産性の向上に基づく内需の振興による失業救済の考え方だと理解することが出来ます。

 

4、鉄道の歴史と電化

 日本の鉄道は明治5年、新橋―横浜間の開通以来、2万数千キロの鉄路を敷設するまで、橋梁工事、トンネル工事など土建業の発展を支え、レールの需要によって製鉄業の育成に寄与したようです。蒸気機関車に関しては、明治32年「汽車製造」(国の車輛製造を移管、岩崎・渋沢・住友と長州閥)が英国SLのコピー機を製作したのが国産のスタート。その後、大正7年には完全国産化が成就、幹線用SLとして国際レベルに達したC51シリーズがデビュー。SLメーカーとして汽車製造に続いて、川崎造船所が参入。大正9年頃には日立製作所、日本車両、三菱造船所などが鉄道省指定メーカーとなりました。設計業務に関しては、昭和3年製造のC53形は国鉄、汽車製造、川崎車輛の三者共同設計、かなり後の昭和16年のC59形に至ってようやく国鉄とSL五社(汽車製造、川崎車輛、日立製作所、日本車両、三菱重工業)の共同設計となりました。昭和7年の時点では勿論SLが長距離鉄道輸送の主役であった訳です。

 

他方、都市の交通としての「電車」に関しては、大正年間に目覚ましい発展を遂げた「郊外電車」の心臓部品であるモーターと制御器は、三菱電機(WH社)、東芝(GE社)、東洋電機製造(英国EE社)と並んで、日立製作所が大正14年までに自主技術による国産化を果たしています。

 

電気機関車については、鉄道省に於て大正11年に東海道本線全線の電化計画が立てられ、大正14年には先ず東京―国府津間が電化されました。日立製作所は大正10年に、小平翁の学友であり且つ蒸気機関車の第一人者である古山石之助氏の居た日本汽船笠戸造船所(日立・笠戸)を傘下に収め、大正13年には国産初の大型電気機関車を鉄道省に納入しています。この電気機関車がヨーロッパ各国からの輸入機と並んで、東海道本線の電化区間に投入されました。

 

しかしながら蒸気機関車はその後も長期にわたり長距離輸送の主役であり続けました。ようやく戦後になって国鉄内に電化委員会が設けられ「蒸気」と「電気」の経済比較調査の結果「電気」の優位が認められ、交流電源による電化が、1950年代以降本格的に進められました。東海道線の完全電化が達成されたのは実に昭和31年のことです。

 

こうした中で小平翁は、昭和7年当時、諸外国において鉄道電化の気運が盛り上がっているとして、電気機関車は運転回数、速度、牽引力に優れていること、煤煙の不快がないこと、更に作業並びに操縦の利便性に言及します。今から振り返ると、SLの技術開発は1930年代にピークに達していたようで、小平翁の技術動向に対する先見性が窺えます。

 

しかし少々本題から離れますが「鉄道電化」は、現在の自動車業界に於けるガソリン車から電気自動車への転換に見られるように、エンジンに関するシリンダー、ピストン、鋳物などの技術を不用なものにします。昭和7年当時蒸気機関に関する技術は将来自動車、航空機などの内燃機関の技術開発に必要なものだった、とも考えられますが、そのあたり日立製作所の事業の先行きを小平翁がどのように判断していたのかも興味を惹かれるところです。

 

「鉄道電化」はいろいろな意味での構造転換を含んでいると思います。日立社内の事業構造は勿論のこと、業界の再編、エネルギー政策にまで影響を及ぼすように思われますが、小平翁は大胆に主張を展開します。

 

5、鉄道電化事業

 小平翁は「鉄道電化事業」の採算性について次のように論じます。

「この事業は国有鉄道1万4千キロの内、7千3百キロの電化を5か年計画で行う。このために電車線路、変電所の設置、電気機関車設備費など総額3億Ⅰ千万円が必要である。鉄道電化によって、動力費、機関車乗務員給与、修理費等の節約が見込まれ、電線、変電所保守費用の増を差し引いて、年2千万円の利益となる。これは投下資本の6.4%にあたる。我が国現在の財政状況からして、この費用総額を歳入中から捻出できないとすれば、躊躇することなく、生産事業公債として着手しても差し支えない。5分利付きの公債を発行し、その剰余14厘を毎年元金に繰り入れることで、30年ほどで皆済されることになるからである。」

ちなみに、昭和5年ロンドン会議で調印された海軍軍縮条約に基づく「海軍補充計画」(艦艇建造費、航空隊編成費)の予算が3億9千万円(昭和6年~昭和11年の年次計画)だったそうです。ちょうど世界大恐慌が日本に波及し、産業界は操業短縮が盛んにおこなわれ、昭和7年度の国家予算は対前年比-10%、増税・公債なしの超均衡予算が組まれたようです。

小平翁は、「鉄道電化」事業が使用する材料は全て国産品であることから、総費用は国内経済に寄与すること、また電気機関車を例にとって費用の構造を分析すると、90%以上が労賃からなるもので、この事業によって一日当たり8万人の就業機会を得ることができ、家族を含めると32万人の生活の安定を確保できることになり、「財界、思想界に及ぼす影響が多大である」と訴えます。

ちなみに、内務省による日本初の全国失業調査(昭和4年)によると失業者数は26万8千人となっていたようです。また一説によると、昭和4年から昭和7年にかけて失業者数は20万人増えたという見方もあるので、相当な数に上ったようです。

あたかも、この時期に政府によって「時局匡救事業」なるものが実施されたようです。景気対策の為の公共事業という名目で、昭和7年から昭和9年までの間、土木事業に加えて満州事変に伴う軍事費増額を含んだ予算として、国家財政から5億5千万円の資金が投入されたようです。ある意味で、米国のニューディール政策に似たものとして、軍事費の民間発注と時局匡救事業と併せて需要喚起を図ったもので、景気が回復した後歳費を切り詰めて返済する計画で、政府公債・満州事変公債を発行、日銀引き受け、政府資金市場投入が行われたようです。この事業に対して小平翁は、道路土木工事による労働者の救済は自由労働者に限られ、熟練労働者の救済にはならないと批判しています。

 

エネルギー政策に関しても小平翁は、「鉄道電化」によって65万キロワットの電力が必要とされ、現在数十万キロワットと言われている余剰電力を活用しても足りない位なので、電力業界の活性化に役立つ。また石炭は重要な資源であるが、内地に於ける埋蔵量は80億瓲と有限であるので、今の勢いで消費し続けると50年で尽きてしまう。であるから一朝国家有事の際に備えて備蓄すべきだと主張します。

 

6、おわりに

これだけ周到に考えを詰めた「鉄道電化」事業が、何故すんなりと実現するに至らなかったのでしょうか?小平翁が提唱した「鉄道電化」構想は、先に触れたように戦後国鉄内に設置された委員会で改めて「電化事業の経営評価」を経て、形を変えて実現されるに至りました。もとより戦前の鉄道省に於て、東海道本線の「電化計画」が存在したことに鑑みて、小平翁の構想は鉄道省の心あるグループと意思疎通を図った上での提唱だったようにも思えます。

 

 こうした大規模な構造転換には痛みを伴うもので、例えばSL専業メーカーであった「汽車製造」の存在、あるいは「鉄道電化」によって、売り上げが7%減少する石炭業界の問題、 そして何よりも昭和12年の日中戦争勃発により日本は軍国主義一色になり、「産業振興による民生安定」の考え方を受け入れる余地がなくなったことが影響していると思われます。

 

この論文の最後に小平翁は、我が国が今後産業立国の道を目指すのであれば、熟練労働者の救済が急務であると訴えます。

熟練労働者の失業は「直ちに思想問題に触れ、現社会を呪詛し延いては善良な社会の秩序を破るに至るの恐れがある。彼此深慮するときは、特に今日彼らを救済するの急務なるを切実に感ずるのである。」と説きます。このことは健全な社会に不可欠な、所謂「中間層」の形成を説いているように思われます。あたかも、今こそ健全な「中間層」の育成を図らないと日本国は大変なことになるぞ、と警告している様です。

 

左翼の「革命思想」、右翼の「一人一殺主義」、軍国主義的クーデターの渦中にあって、飽くまで「産業立国」を担うべき健全な中間層を育てる必要性を、敢て訴える小平翁の見識を、もって銘すべきだと思います。     

 

                                                                                                                                                                                                                          以上 

失業対策としての鉄道電化(小平浪平)

失業対策としての鉄道電化(小平浪平)

                  2020年4月8日

                  文責 本多希久雄

 

以下は「交通と電気」に掲載された小平翁の論文。漢字は当用漢字に改めた。

 

失業対策としての鉄道電化

目次

一、緒  言

一、鉄道電化の規模と其の経費

一、電化による利益、財源及償還方法

一、電化の経費と労銀との関係

一、過剰電力の消化と石炭

一、結  論

緒    言

 失業問題が思想問題と共に現下社会問題の中枢をなし其解法の適否は直に社会を左右し延ては国家の運命をも支配すべき社会的将亦国家的重大問題であることは識者の等しく認むる所である。

 

 大正九年の財界反動後久敷に渉る世界的不況のため失業洪水といふ稀有の難局に当面して居る我国で官民挙って其対策に腐心して寧日なき亦故ある哉である。然も依然失業者激増の一途を辿れるは従来の如き消極的糊塗的対策では到底其目的を遂行し得ない事を有力に物語るものであり、茲に真面目に有効適切な積極的根本的対策を建て以てこの陰惨な低気圧を完全に掃蕩することの緊切なるを暗示するものと信ずる。

 

 而して現下の失業が社会各般に普遍的現象である以上其対策亦各般の見地より講究さるべきである。筆者は日立製作所の社長として多年密接なる関係を有する電気事業の方面より考察して国有鉄道の大規模なる電化が我国情に鑑み対策の一つとして即時実行の急務たるを痛感し敢て短見を披歴して大方の叱正を希ふ次第である。

 

        鉄道電化の規模と其の経費

 

 失業問題解決の対策は各方面より色々に講究されてゐるが究局に於て産業の振興に俟つより外に方法がない、即ち産業の振興により好景気を招来し各階級の労働者を可及的多数且迅速に救済するを以て其理想とするものである。

 

 而して従来各方面に広く採用され且政府当局も現に施行しつつあるが如き救済策即ち主として道路土木工事等による労働者の救済亦対策の一ツではあるが 其直接救済の対象となるものは主として自由労働者に限られて熟練労働者に及ばない。

素より自由労働者は其数、質共先ず之を救済する必要あるものにて此の点に於て政府の現に採りつつある手段は妥当なりといはねばならぬ。

 

 然し之れあるが為に熟練労働者の救済を等閑に附してよいといふ理由にはならない、即ち熟練労働者の失業を此の儘に放置せば彼等は或は思想矯激に走り或は堕して自由労働者の群れに入り一朝にして熟練なる技術を毀傷し堅実なる思想を喪ひ他日景気の恢復を見るに至るも以前の仕事に復帰するを不可能ならしむる事は明である。

 

  斯の如きは国家産業上誠に憂ふべきことにて又非常なる損失なりと云はねばならない。故に政府は一面自由労働者の救済に努力すると共に他面熟練労働者救済の為にも大に力を盡す責務ありと信ずるのである。然らば其対策如何、勿論之には種々の方法がある、即ち給水、電燈、瓦斯等の諸事業にて是等は何れも此の目的に適切なるものなりと云はねばならない。

 

  乍然惜むらくは之等は概して一単位の規模が小なるか 又は一地方に限らるるが故に多数熟練労働者の応急的救済とはならない。然るに筆者の主張せんとする鉄道電化は規模大にして然も道路土木工事等と異なり自由労働者と共に多数の熟練労働者を救済し且明かに利益を計上し得、夫れ自体として経済的に独立し得るものである。

 

  然らば其電化の規模如何と云ふに大体に於て主として貨客輻輳し大なる輸送力を要求する我が国有鉄道中其の主要幹線を全部電化せんとするものである。即ち現在の国有鉄道一万四千一百粁中(昭和五年三月末現在)已に電化し又は電化に着手せる線を除き約七千三百六十五粁を電化せんとするものである。(註一、電化予定線路の名称は文尾に挙ぐ)

 

 即ち北は北海道名寄より南は九州鹿児島に至る迄一貫して遂行せんとするものであるが之が一挙に完成せんとするものではない、筆者の計画にては之を五ヶ年に分ちて遂行せんとするものである。蓋し電化期間余りに長き時は失業救済の目的に添はざるべく短かきに失する時は一時に莫大なる経費を要することとなり国家財政の現状に照し其の成功を期し難きが故である。然らば右各線の電化完成には果して如何程の費用を要するやと云ふに次の如く約三億一千三百六十一万八千円を要する次第である。

 一、電車線路、饋電線路及び帰路          90、661、000円

 (計7、365.2粁外に側線5500粁)

 二、変電所   224ヶ所            46,048,000円

 三、電気機関車設備費 1,990輛       155,850,000円

 四、煖房車設備費     582輛         7、203、000円

 五、線路改修及増備費                7,885,000円

 六、自動信号改修費                 1,039,000円

 七、通信線路改修費                 1、772、000円

 八、電力線路費                   1、480、000円

 九、工場増備及改修費                1,680,000円

  総   計                  313、618、000円

 (註二、詳細文尾一覧表参照)

         電化による利益、財源及償還方法

 元来鉄道の動力は主として蒸気力に依るを常とし都会地又は其の近郊の短距離を除き少しく遠距離になれば総て蒸気力によるを以て原則としてゐた。然るに近来諸外国に於ては此遠距離を電化するを各種の方面より観察して有利とするに至れり果然鉄道電化は最も重要なる問題の一つになるに至った、即ち電化の為に要する投下資本は左程大なるを要せず且運転回数、速度、牽引力に於て著しく蒸気鉄道に優り殊に勾配線を下る時には電力を回生し得べくしかも煤煙の不快無く作業の簡単、列車操縦の容易等種々の優越性を持ち其の利益とする処枚挙に遑ない而して筆者の計算によれば上記主要幹線の電化は其の完成の暁に於ては次の如く凡そ年二千九万八千九百円の純利益を的確に計上し得ることとなる。

運転費及保守費節約額

 一、動 力 費                     9、439、800円

 二、機関車乗務員給料其他                5、023、200円

 三、修 車 費                     6、105、000円

 四、油 脂 費                       443、600円

 五、水料及洗車費                      332、000円

 六、機関庫費                      2、032、000円

 七、車掌及車掌見習給料其他                 213、300円

 八、電燈電力費                     1、801、000円

 九、共済組合與金                      195、000円

     計                      25、584、900円

十、 電線路保守費                    3、445、000円

十一、変電所保守費及運転費                2、041、000円

     計                       5、486、000円

  差引節約額                     20、098、900円

 (註三、詳細計算は文尾参照)

 

 今此の利益額を前記総経費と比較対照するに総投下資本三億一千三百六十一万八千円に対し五ヶ年計画完成の暁には毎年二千九万八千九百円即ち年六分四厘の利益を挙げ得る事となるのである。今日の如き財界不況の時代に於て一方には多数の失業者を救済しつつ他方には萎微不振の極にある我国産業界に更生の機会を與へ尚且敍上の如き利益を計上し得る事業他にありやと申したいのである、然らば此の経費の財源は果して何処に求むべきか之れ誠に重大なる問題である。事実我国現在の財政状態を以てしては如何にするも之丈の巨費を歳入中より捻出する事は出来ない恐らく起債によるの外他に適当なる方策なしと考へる。然るに公債の発行に就ては世上賛否種々の議論が行はれて居るけれども已に失業者救済の為に起債をして居るのであるから斯の種の起債に関して今更異論あるべしとも考へられない且つ本事業は先にも述べたる如く単純なる失業者救済事業に非ずして現に利益を計上し得る事確かなる生産的事業である故に何等躊躇する処なく失業者救済事業公債を以て早急に着手して差し支へないと信ずる、否寧ろ生産事業公債としても可なりと考へる次第である。勿論公債発行に関する詳細なる技術に就ては之を大蔵当局及其筋の専門家に一任するとし兎に角熟練職工救済を標榜して直ちに計画せらるべきものなりと信じて止まない。

 此の事業は前述にて明かなるが如く一ヶ年に六分四厘以上の利益を生むものなるを以て五分利附の公債を発行するも尚一分四厘余の剰余を生ずべく之を毎年元金に繰入れ償還するに於ては約三十一年後には何等他の援助を藉る事なく本事業自体として皆済し得るものである。是れ筆者が特に本事業を高唱する所以である。

 

       電化の経費と労銀との関係

 更にこの電化に要する総経費の内容を吟味すれば今日に於ては電化に使用する材料は殆ど全部国産品を以て事足るが故に、此の費用約三億一千三百万円も殆ど全部国内に振撒かるるといふも差支なく従って我国産業界に及ぼす影響も亦偉大なりといはねばならない。然も本事業は五ヶ年に渉り施行せらるるものなるが故に其の効果は巨大なると共に且つ長期に渉るものである。

 

 加搗てこの費用は、下記計算にて明かなるが如く終局に於て其大部分は労銀に帰するものである。今本経費中最大額を占むる電気機関車に関する経費を調べ、更に之が製作材料中重要部分たる銅に関し其内容を吟味すれば次の通りである。

 一、電気機関車        1、990輌      155、850、000円

  イ、此の製作費用の内訳下記の通り

   一、設計、製作及試験等に要する給料及賃金              60%

   二、製作全行程及発送に至る迄の材料費即ち鉄、銅、絶縁及荷造材料等  35%

   三、資本に対する利子、利潤及機械償却費其他              5%

  ロ、上の内、二の材料費を更に吟味すれば

   一、賃金及給料に属するもの                     80%

   二、材料費に属するもの                       10%

   三、資本の利子其他に属するもの                   10%

  ハ、更にこの材料費を還元すれば

   一、賃金及給料に属するもの                     50%

   二、材料費に属するもの                       20%

   三、資本の利子其他に属するもの                   30%

 即ち労銀に就ての割合を要約すれば

   60%+35%×80%+35%×10%×50%=89.75%

二、銅

  イ、この製作費用の内訳次の通り

   一、採掘、精錬其他に要する給料及賃金                70%

   二、材料費                             25%

   三、資本に対する利子、利潤、其他償却費                5%

  ロ、上の内材料費を更に還元すれば

   一、石炭、溶媒其他採掘及運送に要する賃金              85%

   二、材料費に属するもの                        5%

   三、資本に対する利子其他                      10%

 即ち労銀に関する割合を要約すれば

   70%+25%×85%=91.25%

 尚更に詳細に吟味すれば本経費中九割以上のものは終局に於て自由又は熟練労働者、或は其他の知識階級に属するものの給料又は賃金となる事を知るのみである。斯くて電化に要する経費を大畧三億一千三百万円とし之を五ヶ年に分ち支出するものとせば毎年の支出額は六千二百六十万円となる、然るに上の事例にて明かなる如く労銀以外の材料其他の支払いは、約一割に過ぎざるが故に我が産業界に賃金及給料として支払はるる額は年五千六百三十万円となるのである。然らば是等労働者其他の労銀を一日平均二円五十銭と仮定し、一年の就業日数を二百八十日とすれば、一ヶ年を通じ総人員二千二百五十余万人に仕事を与え得る事となり、毎日平均八万余人に就業の機会を与える事となる、而して是等労働者の家族を当人以外平均三人とするならば、当該労働者以外約二十四万人に衣食の資を給する事となり合計約三十二万の人が安定の糧を得べく、財界、思想界に及ぼす影響の偉大なる事敢て贅言を要せざる所である。

 

       過剰電力の消化と石炭

 鉄道電化完成の後に於ては自然電力を多量に使用することとなるが、上記計画によれば其の所要電力は変電所設備に於て約六十四万九千キロワットとなる訳である。然るに現在電力界の需給状態を見るに我国産業界の不振は自ら多量の過剰電力を生ずるに至り今日に於ては詳細なる数字は固より不明なるも全国にて火力及水力を合し、数十万キロを剰しをるは疑うべからざる事実である。是等は実に各電力会社が巨万の資本を投じ建設又は開発したるものにして、之を此儘放置することは徒に資本の死蔵を来すのみにて国家経済上誠に遺憾なることと云はねばならない。

 

  然るに以上の如く鉄道電化を完成する時は此の過剰電力を悉く利用し盡すのみならず、寧ろ供給不足を訴ふるに至るべく従って目下極度の悲境にある電力会社をして活発なる更生の途に就かしむる事となり、此の方面よりする労働の需要亦期して見るべきものがある。実際我国財界禍根の一は、四十億円に垂んとする資本を持つ電力会社の事業不振、即ち電力の過剰供給にありといはれてゐるのであるから之が適当に利用され資本が活用さるる事とならば、延いては我国財界に一大光明を與へ我産業界を大に振興せしむるは多言を要しないと信ずるのである。

 

 次に石炭の問題より考察するに元来我国の如き天然資源の極めて貧弱なる国に於ては唯単に地方的の利害に捉われず、一国の生存上又は国防上より観察し如何なる手段を講ずるとも出来得るだけ長く石炭を蓄蔵する方策を考へ、而して之を海軍又は海運等必須已むを得ざる方面のみに使用せしむるを緊要なりと信ずるのである。現に商工省の調査によれば我国の石炭埋蔵量は内地に於て約八十億噸に過ぎずして其年産出額は三千万噸以上なりと言はるるが故に、年々の増加額を五分と仮定すれば今日の勢いを以て進まば今後五十年にして採掘し盡さるると云われて居る。然るに一方に於ては動力用として利用され得る水力電気は、全包蔵出力一千三百万キロワット以上にして昭和五年末に於て已に開発されたるもの未だ僅かに二百九十四万キロワット余なるが故に現在の我が産業状態を以てしては殆ど無尽蔵なりと云ふも過言ならざる程である、故に此問題に関する限り国家政策の大局よりして解決さるるを至当なりと考ふるのである。

 

而して此の最も適切なる実例は之を世界大戦中、石炭欠乏の為に非常に悩まされたるフランスに求める事を得るのである。即ちフランスは其一ヶ年間に所要する石炭約六千万瓲中、二千万瓲は毎年之を英、独、及白の諸国に求め、漸く需要を満してゐたのであるが大戦に際し各国よりの輸入途絶し非常に困惑したるが故に、大戦終了後僅々三日にして之が対策の為、電化調査委員会を設置し其研究の結果、石炭を最も多量に消費する鉄道を電化する事となり、中部ドルドニュー地方、南方ピレネー山麓地方及東南部アルプス山麓地方等に発電に適当なる水力が豊富に存在することに着目し之を利用し以て鉄道を電化し、石炭の節約を計る事となり現在に於ては已に総計1、048哩の鉄道を電化するに至ったのである。 

尤も此内には巴里郊外附近に於けるものの如く火力によるものをも含むで居るが其の主なる目的が、石炭節約の為め動力を水力に仰げるの事実は之を見逃し得ないのである、我国の如き石炭埋蔵量の少なき国に於ては正に此のフランスの例に倣ひ石炭の節約をなすべきである。

而して此の電化の結果は我国にては蒸気鉄道用石炭約三百七十万瓲中、二百三十三万瓲即ち鉄道省全購入炭の約六割五分、日本全使用量年額の約七分を節約することとなり夫れ丈け石炭蓄蔵の寿命を延長したることとなる次第にて之が一朝国家有事の際、如何なる役目を演ずるかは敢て説明を要しないと考へるのである。

      

   結 論 

 

 以上の如く筆者は鉄道電化が、我国現時の産業界振興の為に及ぼす至大なる影響及失業防止並に救済事業として多大の効果あることを述べ、この目的遂行のために一日も早く着手せられねばならない事を説明したのであるが、更に尚一層この事業の施行の徒らに遷延を許さざる所以を強調したいと考へるのである。蓋し我国が今後産業立国の大旆の下に進まねばならない事は夙に識者等の認むる処である。この意味に於て熟練労働者が如何に国家的に必要なるか、又如何に重要なる役割を演ずるかは敢て贅言を要しない。

 

然るに彼の自由労働者救済のためには道路土木工事等の如き適当なる事業あり当局又全力を盡して救済に努力しつつあるのであるが、熟練労働者救済のためには更にその途開けず、為めに自然に放置しあるが如き状態である。

 

然も今日極度の財界不況の結果は彼等をして益々自由労働者に堕せしめ果ては失業者の群に投ずるの止むなきに至らしむべく、比較的知識程度の優秀なる彼等の失業は、直ちに思想問題に触れ現社会を呪詛し延いては善良なる社会の秩序を破るに至るの恐れがある。彼此深慮するときは特に今日彼等を救済するの急務なるを切実に感ずるのである。而して之がためには鉄道電化を早急に施工するを以て最も適切なる救済策なりと信じ特に本事業の完成を強調する所以である。

 

(以下 註一、註二は資料編へ)                                      以上

「失業対策としての鉄道電化」(註一、註二、註三)(小平浪平)

「失業対策としての鉄道電化」(註一、註二、註三)(小平浪平)

文責  本多希久雄

 

註一、電化線区間表

線 名    区 間    粁数      線 名    区 間    粁数

東海道本線 国府津―神 戸 523粁    高 崎 線 大 宮―高 崎  74粁

横 浜 線 原町田―八王子  20     両 毛 線 高 崎―小 山  91

北陸本線  米 原―直江津 366     上 越 線 新前橋―水 上 

中央本線  甲 府―名古屋 278           石 打―宮 内 113

篠ノ井線  塩 尻-篠ノ井  67     日 光 線 宇都宮―日 光  40

山陽本線  神 戸―下 関 529     奥羽本線  福 島―青 森 487

福知山線  神 崎―福知山 108     羽越本線  新 津―秋 田 271

宇 野 線 岡 山―宇 野  32     信越本線  高 崎―横 川

山 口 線 小郡―石見益田 516           軽井沢―新 潟 317

大 社 線 出雲今市―大社   7     予 讃 線 高 松―松 山 194

関西本線  名古屋―港 町 165     鹿児島本線 門 司―鹿児島 400

参 宮 線 亀 山―鳥 羽  71     長崎本線  鳥 栖―長 崎 158

草 津 線 柘 植―草 津  36     佐世保線  早 岐―佐世保   8

奈 良 線 京 都―木 津  34     日豊本線  小 倉―大 分 132

桜 井 線 奈 良―高 田  29     函館本線  函 館―旭 川 425

片 町 線 木 津―四條畷  32     長 輪 線 長万部―東室蘭  77

和歌山線  王寺―和歌山市  89     室蘭本線  岩見沢―室 蘭 140

東北本線  上 野―青 森 736     宗谷本線  旭 川―名 寄  76

常 磐 線 日暮里―岩 沼 343     貨物支線          110

                       合 計        7、365

(元資料の粁数は小数点以下一桁まで表示してある。ここではそれを切り捨てた。尚この表の粁数は吟味が必要。山口線 小郡―石見益田間は516粁とあるが実際は93粁。合計の数値も計算が合わない)

 

註二、電化建設費

一、電車線路、饋電線路、及帰線

内訳     単価       数量         費用計

第一類  38,000円    71.0粁    2、698、000円

第二類  22,000     77.7     1,709,000

第三類  21,500    156.3     3、360、400

第四類  18、000    331.1     5、959、800

第五類  12、500  1、171.3    14、640、000

第六類   7,800  1、992.1    15,538,400

第七類   5,400   3、565.8    19、255、300

小計           7、365,2粁   63,161,000円 

其他ノ側線 5,000円  5、500,0粁   27、500、000円

合計    (四捨五入)           90、661、000円 

 

二、変電所

内 訳

各変電所設備容量 変電所数  設備容量計  変電所一ヶ所   建設費計

キロワット       キロワット   建設費

第一類 8,000    6   48、000 440千円   2,640千円

第二類 6、000    8   48、000 342     2、736

第三類 4,000   38  152,000 240     9,120

第四類 3,000   57  171、000 186    10,602

第五類 2,000  115  230、000 130    14、950

小計        224  649,000        40、048千円

単価    キロワット数

其他特殊受電設備     30円  200、000       6、000

合計                            46、048千円

 

三、電気機関車設備費

内 訳

単価        数量           価格計

第一類    115,000円   210輌       24、150千円

第二類     95,000    470        44,650

第三類     75,000    750        56,250

第四類     55,000    560        30,800

合計             1、990       155、850

 

四、煖房車設備費

内 訳

単価       数量            価格計

第一類     15,000円    63輌          945千円

第二類     13,000    356          4、628

第三類     10、000    163          1、630

合計                582          7、203

 

五、線路改修及増備費

内 訳

費 目                 価 額

隧道改修費               3,200千円

信号機移転費                150

機関庫及機関庫分庫改修及増備費     1,575

其他一般軌道関係改修費         2,960

合 計                 7、885

六、自動信号改修費             1,039

七、通信線路改修費             1、772

八、電力線路費               1、480

九、工場増設及改修費            1、680

  総 計               313、618千円

 

註三、運転費及保守費節約額

一、動力費

電化区間運転牽引瓲粁数

 客 車         18,510,000,000瓲粁

 貨 車         21,480,000,000

  計          39,990,000,000瓲粁

蒸気運転石炭消費量         2,335,800瓲

 上記代価            25,693,800円

電気運転電力消費量  

客 車       463,000,000「キロワット」時

貨 車       440,000,000

 計        903,000,000「キロワット」時

上記電力料金

 一「キロワット」時一銭八厘   16,254,000円

差引節約額             9,439,800円

二、機関車乗務員給料其他

蒸気運転乗務員数              12,827人

上に対する給料其他         11,916,400円

電気運転乗務員数               6,711人

上に対する給料其他          6、893、200円

差引節約額              5、023、200円

三、修車費

蒸気機関車修繕費           10、016、000円

電気機関車修繕費            4、306、000円

差引節約額               5,710,000円

省用石炭運搬用石炭車に対する節約額      55、000円

其他客貨車に対する節約額          573,000円

節約額合計               6、338、000円

煖房車修繕費                233、000円

差引節約額               6、105、000円

四、油脂費

蒸気運転油脂費               667,100円

電気運転油脂費               223、500円

差引節約額                 443、600円

五、水料及洗車費                332、000円

六、機関庫費                2、032、000円

七、車掌及見習給料其他

  蒸気運転乗員数                 5,220人

  上に対する給料其他           4、220、100円

  電気運転乗員数                 4、958人

  上に対する給料其他           4、006、800円

  差引節約額                 213,300円

八、電燈電力費               1、801、000円

九、共済組合給与金               195、000円

   節約額合計             28、013,800円

一、電線路保守増加費            3,445,000円

二、変電所保守費及運転増加費        2、041、000円

   増加費合計              5、486、000円

  総差引節約額             20、098、900円

 

建設費並に保守及運転費計算に関する備考

一、運輸数量其他国有鉄道に関する実績は、大体昭和五年度の統計に準拠し之に対し   今既に電化工事を完成したるものと仮定して、電化建設費及電気運転費を計算した。実際問題として電化完成の際に於て、運輸数量の増加ある時は計算は電化の為に有利となる事明かである。工事運行中に於ける物価の騰貴は建設費の増加を来すべきも、一方保守及運転費に於ける節約額は物価の騰貴と人件費の増加とに伴ひ著しく増加し結局電化の為に利益と成る。

二、国有鉄道に於ける従来の電化建設費及電気運転費の実績は、本計算の基礎として採用したるも下記の理由に依り全部は之に拠り難きを以て適宜変更を加へた。

(A)一局部の電化は蒸気運輸設備と、電気運転設備との重複、車輛其他一般設備及従事員の利用有効ならざる事等に依り充分の効果を収むる能はざる事。

(B)電化の諸施設は運転の安全度を減ぜざる範囲内に於て従来のものよりも簡易化し得る余地ある事。

(C)電気運転に要する国産電気車輛、諸機械器具等の設計及製作は従来は幾分試験時代にして急速なる進歩の階梯にありたる点及大規模の電化の為、製作者が標準一定せる前記製品多量生産を為し得る点を考慮せば、製品の価格は著しき減少を見込み得ること。

(D)国有鉄道に於ける従来の電化は比較的小区域に限られ、諸設備の使用に関して漸次経験を得つつある過渡時代なると、前記(C)に伴ひ製品の優良と成る傾向あるとに鑑み、電化実施後に於ける予備の装置及物品、従業員数並に運転費は著しき減少を見込み得ること。

(E)電化に依り電力の大なる需要生ずる為と、電気運転の負荷と、他の一般用途に対する負荷との、重畳に依り電力供給会社の供給電力の負荷率の改善を見るため低廉なる単価を以て電力を購入し得る見込みあること。

一、計算に於ては総て電気機関車に代用するものとし、電車又は電車の列車を運転するを以て優れりとする場合有るならば、之を考慮することに依り電化の為め一層其計算は有利となる。

  電化の電気鉄道方式は従来国有鉄道に於ける標準たる直流千五百「ヴォルト」式とした、技術の進歩発達に伴ひ少く共、長距離主要区間の電化に対し三千「ヴォルト」の電圧を使用する事に依り電化の為め、更に有利なる計算を得ることができる。

一、従来の電燈、電力、信号等の電力に対する配電に対する配電線及通信線にして新設の電車線路用支物に、添架することに変更するを利とする場合ある可きも、総て従前のままとする。

一、電気運転の電力は、総て他より交流電気を自営変電所に於て受電し、電気運転用のものは直流電気に変成して、電車線に供給するものとする。猶ほ従来各局に於て小規模に購入使用せる電力にして、電化区間に於けるものは電気運転用電力中より便宜供給するものとし、之が為に要する電力線路費を計上した、電力料は変電所入口に於て、一「キロワット」時当り平均一銭八厘とし、電気運転所要電力量は東京付近各線に於て、施行せられた各種電気列車の実験の結果に準拠して、充分の余裕を與へ勾配線中電力回生を行ひ利益あるものには之を考慮した、列車運転の速度は幾分の増加を見込んだ。

一、電気機関車の所要数は、速度の幾分の増加、取扱の簡易、修繕日数の減少等考慮し蒸気機関車に対し三割の減少を為し得るものとした。

一、従来の機関庫及工場は其の設備の変更又は増備を行ひ其儘使用するものとする。

一、列車の煖房は煖房車を連結して行ふものとし、点燈の装置は従来のままとする。

一、自働信号装置に対しては電化に依り軌道を帰線に利用する為め、インピーダンスボンドを増備するものとする。

一、電信線及電気信号線にして単線式のものは、複線式に変更するものとする。

一、電化に依り不用に帰する蒸気機関車、省用石炭運搬用石炭車、客貨車の一部、給水設備、転車台、機関庫内設備の一部、工場内設備の一部、小発電所の一部等の処分は計算中に考慮せない、其の利用の金額又は其のスクラップヴァリウを計上すれば、優に本計画に要する計上外の諸雑費を支弁することが出来る。

一、電気機関車にはデッドマンスハンドルの如き、非常用装置を設け機関車、乗務員は、長距離旅客列車に二人を当つる外全部一人とする、猶ほ速度の幾分の増加に伴ふ機関車乗務員、車掌、助手の減員を見込んだ。

一、修車費は車輛の減少、各車に対する修繕費の減少、人件費の減少等に依り電気機関車に在りては、蒸気機関車の場合に比し五割七分の減少あるものとする。

一、人件費は総て諸給与、手当、賞与、旅費、賄料及被服費を含むものとする。

一、鉄道電化の結果、幾分人員の減少を来し失業者を増加するが如きも、斯は電線路及変電所設備の増加其他により相当の人員を要し、結局失業者を生ぜざることとなる。

 

                                                                          以上

 

 

 今、まさに小平さんが喝破したように日本の財政は瀕死の状態であり、AIITの遅れによる産業構造の転換が不可欠にも拘わらず、日立のDX以外見るべきものはなく、このままいくと直接労働者がDXに伴うIT化により間違いなく失職するでしょう。そこに日本の財政問題がかぶさると日本壊滅のシナリオになりそうですね。

 貴兄なんかには異論があると思いますが、日立のDX化は日本の産業転換のモデルです。ただ、これを成功させるためにはAI教育とデジタル革命に合わせた教育システムが不可欠です。

 

 脱炭素原理主義の実行は基本的に弱者がただただ貧困に陥ることを許容する社会が出来ます。デジタル化の怖さは日本の教育制度の旧式化がつづいていることにつきます。そういう意味であの時代に小平さんが持っていた先見性が際立ちます。

 日立の役員会が外人と日本人のDX対応した会社のトップにより占領されるのは間近に感じます。

 

 アナログからデジタルへの変換は革命です。1の次は2でという概念が1の次は10でその次は100だという桁違いの発展ですから、あの当時、小平翁が心配されたことと同じ次元の話です。

 これからの10年は日本にとって苦難の道になるでしょう。

 

 それにつけても中国の“共同富裕”の実現に、今の成功者をつるし上げる構造は結局“共同貧困”に邁進しているように見えます。私はGAFAに対抗するにはあれだけの利益を上げられる集団を作り、その利益で弱者の底上げしかないと思っています。基本的な理念は小平翁と同じです。

 あの時代にああいう考え方をする人物が何人も出た日本の底力は江戸時代の寺子屋からの育った人物の伝承でした。今、小平翁の言われる理念の実行が不可欠の課題だと思っています。DX化です。以下略