この日記を綴るに当たって左記の通り「はしがき」を書いている。
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吾今まで日記を謂ふるもの書くに、懐中日記とて印刷局にて製せしものに書き就けしが、いと小さき本なれば、一日に書く事多き時は、其内に書き入れ得ず。思うことあるも空しく棄てて打ち忘れるる事多かりければ、再び思い起さん事難ければ、この後は何くれとなく思うまにまに日記の内に書き入れて後の用となし、又同時に日記の体裁を改良して、是れ迄の如く、日記は書くも其の日記の価値一文もなき事なく、日記をして千貫の重みを人に知らしめんとするものなり。
明治二十五年しはすの二十七日
故郷の書院にて 晃南生しるす
付言 記中偶感を書するは日記の本性に違うととがむなかれ。偶感とて必ずしも偶然と浮かぶものに非ず。吾人が社会の風波をわたる中に起こりし事実あればこそ、その反応の心に映ずるなれ。去れば所感を日記中に書きつくるも強ち無理ならぬと思うになむ。
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